この記事では、アニメーションに登場したオジギビトについて、本部長が目にしたものに関して紹介したい。 とり・みき氏も「街角のオジギビト」(筑摩書房、2007年)で触れておられる通り、恐らく日本製アニメでは、オジギビトはしばしば登場しているものと思われる。その登場の仕方で恐らく最も多いのは、シンプルに「背景」としてであろう。
それと同じくらい多そうなのが、動かぬ背景から一歩進んだ「何かの拍子に倒れたり飛ばされたりする看板」であろうか。単なる背景よりも物語に一瞬絡むという点ではましな扱いであるが、その反面、一瞬の登場となりやすいものと思われる。 物語に対して積極的・能動的に絡む例はごく少数と思われるが、2014年3月9日放送の「サザエさん」などはその典型例と言えるかもしれない。
実写のドラマや映画でも、オジギビト看板はしばしば登場していると思われる。「ここにオジギ看板を配置しよう」という、言わば「画作り」や演出の過程では、アニメと実写ドラマではほぼ共通の工程であろう。しかし既製品をホームセンターなどで用意する事で済ませられる実写と異なり、全くオリジナルのオジギビトが生み出される余地がより多く存在する点が、アニメ内のオジギビトの特徴と言える。実写でも完全オリジナルを作る場合はあり、またもちろん可能だが、(既製品の画像を流用するにしても、製作過程として)やはり非実体のものを全て一から構築するという点で、アニメ内のオジギビトには、オリジナリティ獲得の可能性がより多く存在するのではないかと考えられる。そして同様の事は、マンガにも言えるだろう。その点が、本部長がアニメ内のオジギビトに注目する理由の一つである。
ここでは本部長がたまたま発見したアニメ内のオジギビトの例を幾つか、年代やジャンルなどで系統立てる事無く、好き勝手に紹介してみたいと思う。ネタバレはなるべく避けるつもりであるが、少々のリークも気になる方は、以下のリストのみで止めておかれることをおすすめしたい(そして本当にただただ文字ばっかりなので、その辺に耐性のない方も……)。
当然の事であるが、本特別室では作品の画像を紹介する事はしていない(実在する看板の写真は紹介)。その点ご了承戴きたい。なお、この記事は集会所第7特別室などを再構成したものである。
実在のオジギ看板が使用された例
映画クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦(1999年/映画)
以下に示したものと同じ看板が「映画クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦」(1999年)に登場する。DVDでは、チャプター22「地球温泉化計画発動」後半、本編始めから63分12秒~15秒の間である。秩父の地下基地から悪の組織"YUZAME"の巨大ロボットが地上に姿を現すシーンで、やや暗い場面ではあるものの、詳細に描き込まれたこの看板を見る事ができる。
アニマトリックス(2003年/OVA)
下の写真に酷似した看板が、映画「マトリックス」の設定に基づいて作られたオムニバス・アニメーション「アニマトリックス」の七番目のエピソード「ビヨンド」(監督・脚本:森本晃司)に登場する。登場の時間は開始後11分24秒後の数秒間である。工務店の名前とマーク、文章は異なるが、全体の構成は酷似しており、何よりもオジギビトは間違いなく、この人物を元にしていると思われる(というよりほぼそのまま)。工務店の名前は残念ながら画面から読み取る事ができなかったが、最初の一文字目は「保」のように見える。設定資料集などで確認できるのであろうか?
全くの余談であるが、この写真を撮影する時、二人の女子高校生が数メートル離れたところで「何やってるんだ、こいつ」という様子でこちらを眺めていた。まあ、これも路上観察者の宿命というものであろう。(因みにドイツでも経験あり……スーツ姿の若い女性であった)
十数年後の彼は、服の色は変わったものの、ほぼ変わりない形で活動中であった。しかし、より詳しく見ると、口のカーブや頬の赤み、目の感じ(黒目の点と目の輪郭の微妙な位置関係および太さ)などに、僅かながら差異があるようである。保護帽上のマーキングやベルト(バックル部)などにも少々の変化が見られる。
アリスと蔵六(2017年/TV)
第1話「赤の女王、逃げる」で、本作の主役の一人、蔵六がコンビニへと向かう最中の風景として、建設現場を囲む塀の上に、大和ハウス工業のものと思われる直立不動オジギビトの看板(下の写真)が登場する。本編開始後約14分後、CMを除くと約12分10秒後で、登場時間は約2秒程度である。
残念ながら解像度の問題で全てを正確に読み取るのは困難だが、文字の配置からして、やはりこの看板のメッセージであると思われる。
この看板の右側には、「街角のオジギビト」の107ページの例4ではないかと思われる、見得切り型の人の看板も確認できる。この人には未だ出会ったことがないので、写真をここで紹介することができないのが実に残念である。ぜひ一度じかにお会いしたいと思っているのだが……。既に代替わりが進んでいる可能性も高く、個人的には、なかなか出会うことが難しくなっている人の一人ではないか、と考えている。このシーンをデザインした方は、もしかするとこの見得切り型の人に、ごく最近出会ったことがあるのだろうか。だとすると実に羨ましく思うとともに、やや希望が持てる話でもある。
作品内オリジナルと思われる例
ハイスクールミステリー 学園七不思議(1991年/TV)
第15話「恋占い」Bパートが始まってすぐ、本作の主人公である一条みずき(霊感少女)が工事現場の前を歩く場面で、直立オジギビトが登場。文字によるメッセージを発していない、手描き感が極めて濃厚なオジギビトが一人、頭を下げているのが確認できる。この看板の近くには、まるで木製の表札のような「頭上注意」の警告看板がある。 これらから見て、この看板をデザインしたスタッフの方は、実際のオジギビト衆をあまり詳しく観察しなかった様子である。その点少々残念であるが、工事現場には確かこういう看板があるな……という認識のもとで作画されたと思われるので、「オジギビト衆の世間一般への浸透」という点では大変喜ばしい例でもある。
「ハイスクールミステリー 学園七不思議」は、つのだじろう氏のホラー漫画「学園七不思議」を原作とする、テレビアニメである。金曜の午後四時半という微妙な時間にひっそりと始まり、意外に長く続いて(全41話)静かに終わった本作、残念ながらメジャーとは言いがたいと思うが、隠れた傑作と評価する方々も少なからずおられるようである。かく言う本部長もその一人……2008年にようやく出たDVDボックスも、しっかり予約して買った。
霊の存在を信じない人、霊をもてあそぶ人はだいたい不幸になるという恐怖のルールが貫かれている本作、女子高校生だらけで一見華やかに見えて実は大変怖い話だらけで、怪奇方面がお好きな方には非常におすすめなのであるが、今現在はDVDもちょっと入手しにくい様子である(中古品も結構高い)。CSなどで放送されたことはあるのだろうか。そろそろ、Blu-Rayでの発売をお願いしたいところ……と思っていたら、2017年9月27日発売となった(しかもサントラCD同梱!)。大変めでたい事である。当然これも確保した。
ダーティペア Original Video Animation(1987年/OVA)
第2話「まきぞえごめん! 天地無用のハロウィンパーティ」での登場である。ハロウィンのお祭り騒ぎに紛れ込んだ、市街戦用撹乱ロボット「タクティカル・ロボット・ウェポン」を、本作の主人公であるケイとユリが追跡している最中に、「STOP!!」と見得切りポーズを取る人が登場(10:52)。これもRIDEBACKと同様で、爆走するロボットに跳ね飛ばされるという憂き目に遭う。そして出番も一瞬……。これがアニメオジギビトの宿命といえばそうなのだが、単なる背景よりはましというところか。
ちなみにこのエピソードの脚本は、SF作家の笹本祐一氏によるものであった。氏の代表作は「ARIEL」と言えば多くの方々にわりと通じると思うが、アニメ「モーレツ宇宙海賊」の原作「ミニスカ宇宙海賊」の方が最近(でもないか)ではもっと広く知られているのであろうか。
映画クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡(1997年/映画)
本作には複数の現場オジギビト看板が登場するが、単なる背景としてではなく、物語に絡む小道具として扱われている場面もあるのが大きな特徴である。
珠由良族本拠地の場面では、以下のような現場オジギビトが登場する。この場面のギャグに密接に関係しているので、これ以上の説明は控える。
0:58:40 「キケン!! 立ちいり禁止」(見得切り)
0:58:43 「この先、工事中 行き止まり 通り抜け出きません」(直立)
1:02:18 「○先 工事中の為 通行できません」「ご協力お願いします」(直立)
また、以下のような看板も登場する。
0:58:45 「クマ出没注意」
0:58:48 「チカン出没注意!!」
さらに終盤の舞台、珠黄泉族本部の高層ビルでは、内輪型を幾つか確認できる。
1:32:05 「声出して危険カイヒ 安全作業」
1:32:26 「安全帯○ ○○○○!」(「安全帯を 忘れずに」か?)
これらの看板、「実際にありそうな雰囲気を纏いつつ、ちゃんとクレしん世界の看板である」という感じのデザインである。
本作は隅々まで大変楽しめる傑作と思うが、個人的には上記のようなオジギビト衆の活躍が見られる点でも、好きなクレヨンしんちゃん映画の上位に挙げたい作品である。
RIDEBACK(2009年/TV)
第1話「深紅の鉄馬」に登場。本作の主人公、尾形琳がRIDEBACK(乗用脚式自動二輪車両)「フェーゴ」で走行(というか暴走)の際、コーンなどとともに跳ね飛ばされる現場看板として登場する(20:28-29)。 画面上には、オジギビトはほんの一瞬しか登場しないのだが、保護帽に動物の耳と思しき突起が二つ突き出ており、オジギビトの顔の造形も何となく犬猫っぽい(猫の方か?)という、スタッフの遊び心が垣間見えるものになっている。ちなみに施工者の名称は「株式会社 島島造園土木」である。
本部長は寝る前にたまたま、テレビのチャンネルをサンテレビに合わせていたおかげで、このアニメオジギビトに遭うことができた(ちなみにこの当時は鳥取県に住んでいた……)。全く偶然としか言い様がない。その後、本作のソフト(現在所有しているのは北米版、Blu-RayとDVDの両バージョンが入っていてお得)を入手、このシーンを心ゆくまで見直したことは言うまでもない。
WXIII 機動警察パトレイバー(2002年/映画)
この例に関しては、前述の「街角のオジギビト」で、本作の脚本を担当されたとり・みき氏ご自身が触れておられるので(141ページ「ブラウン管のオジギビト」)、どんなオジギビトかは本作のソフトあるいは本でご確認いただきたい。登場場面は開始後20:30-33くらいのところで、工事現場の中に立つ看板という、まあつまり「背景」である。一応、「ご協力 お願いいたします」と、手書き感濃厚なメッセージも添えられている。
本作、というかパトレイバーシリーズについて語り始めると、大変詳しい方々からいろいろ罵声(?)を浴びせられそうなので、ここでは控える事にしたい。 ちなみに本部長は本作のソフトを、北米版DVD(国内盤より安かったので)とPSP用のUMD版で所有している。(UMD、結局普及しなかったな……)
戦姫絶唱シンフォギアGX(2015年/TV)
第4話「ガングニール、再び」に登場。シリーズ3作目になる「GX」の事例である。敵勢力から送り込まれた自動人形(オートスコアラー)の一体、ミカから追跡を受け、本作の主役である立花響とその友人、小日向未来が逃走を図るシーンで、短い時間ながら直立不動オジギビトとスコップ使いのピクト人が登場する。番組開始後、約19分後くらいであろうか(正確には計測せず)。
直立不動型オジギビトは大変典型的かつ美しいオジギ姿で、「工事中」「ご迷惑を おかけします。」「安全第一!!」とメッセージを発信しており、実際の現場で見かけても全く違和感のないものである。一方のピクト人の方は、あのなじみ深いシンプルなスコップ使いの様式を踏襲しつつ、「ご迷惑をおかけします。」というメッセージなども盛り込まれた、ピクト的工事現場看板としては多少、通常のオジギビト看板寄りの感もあるものである。
これらの看板は現場を囲む塀の上に貼られているわけだが、その数が現実の現場ではまず見られないほどに大量なのが、最大の特徴と言える。2、3メートルおき(あるいはそれ未満)に、これらの看板がペア、あるいはピクト人に直立不動オジギビトが挟まれる形で貼られているのである。アニメならではの「お遊び」なのか、あるいはチェイスシーンの「疾走感」を演出するための物として配置されたためであろうか。まあいずれにしても、種類は少なくとも、オジギ的には大変充実した現場である事は間違いない。
モブサイコ100(2016年/TV)
第5話「OCHIMUSHA ~超能力と僕~」に登場。本作の主人公であるモブが、同じ超能力者であるテルに除霊されてしまった悪霊「エクボ」を探し回るシーンで、直立不動型オジギビトが登場する。ここで画像を付けて紹介できないのが残念なほど大変個性的な人なので、興味がおありの方はぜひ検索などして見ていただきたいものである。彼はオジギ姿勢を取っているのか、というそもそも論的な疑問も浮かばないではないが、カテゴリーとしては間違いなく直立型である。
こういう、ある意味大胆というか豪快とも言えるような人が、実際の現場にももっと出てきてもらいたいものである。最近は真逆の傾向で、「控えめに佇む」人々が多くなってきている感があるが、たまにはこういう人が実際にどーんと現場に出てきてくれても良いのでは……と思う。
たまたま見掛けた例
前述の通り、2014年3月9日放送の「サザエさん」の1番目の話「春のベッピンさん」では、オジギビトが物語の重要な役割を担っていた。ワカメと現場作業員の心の交流を描いたエピソードだったのだが、その過程でオジギビトがある種のメッセンジャーとして活躍するというもので、録画していなかったのが少々……というか大変悔やまれる。
他に偶然見掛けた例としては、以下の二つがメモのアプリの中から発見された。
・「ふたりはプリキュア」14話Bパートすぐに現場標識。
・「マクロス7」29話Bパート直前、12分くらいで交通誘導オジギ。
他にもいろいろな作品で、オジギビトが活躍しているものと思われる。まあしかしこれも現実のオジギ看板と同じく、「たまたま出会う」というところが面白いという側面もあるので、そのためだけにアニメ観賞ということは別にするつもりもない。また面白い人を見掛けたら、この本部長室で紹介してみたい。
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