オジギビト集会所本部長室R

路上観察サイト「オジギビト集会所」本部長のブログ

【オジギビト】定置の人々

 先日、四国支部長から、愛媛県新居浜市別子銅山で見得を切っている人の写真が送られてきた。

愛媛県新居浜市別子銅山の見得切り人(2023年4月/四国支部長報告)

 係員以外が立ち入らないように、怖い顔で見得を切っている人である。ご覧の通り、全体に渡って退色が著しく、かなり長い間この場所で活動していることが見て取れる(しかし最も退色しやすい赤色がかなり残っている……高耐久性の塗料が使われたのだろうか)。
 つまりこの人は、この場所に留まって警告を発し続けている、言わば「定置の人」であると言える。現場オジギビトは、その工事が終わったらその場から立ち去るが、これらの人々はその場に長く留まり、警告を発し続けるわけである。
 ちなみにこの人、東京のNHKの建物の屋上にもいたとのことである。

東京都渋谷区神南・NHK屋上の見得切り人(2007年12月/S氏提供)

 NHKのBSで放送されていた「熱中時間」のディレクターの方から送っていただいたもので、職員でも許可が必要な区画にあった看板とのことであった。
 この人の所属は日立ビルシステムとなっている。服の色は青色で、手のひらのシワも増えている。さらに鼻の形もちょっと違う。保護帽には日立のマークが入っており、形状も僅かに違うようである。鼻に違いがあるのが気になるものの、別子銅山の人と同一人物と見て、差し支えないだろう。(あるいは汎用タイプである別子銅山の人から、「特注」で日立仕様のこの人が派生したのかもしれない)

 この人の仲間と思われる人には、1999年の3月、茨城県つくば市妻木で出会っていた。10年後に京都市内で思いがけず再会したので、そちらの方の写真を。

京都府京都市左京区木野のベンケイ人(2009年6月)

 彼もなかなか怖い顔で、この先には進入しないように警告を発している。注目すべきは、口ひげを生やしていることであろうか。つくば市の彼もこんな感じだったので、楽書きや汚れではないことは確かである。このひげも、制止人としての「凄み」の演出であろうか。ただ、ちょっとだぶつき気味の腹が、その凄みを殺いでいる感もある。つくば市の場合と同様に京都市の彼も、工事用品置き場の前で、関係者以外の進入を防ぐ役割を担っていた。

 京都市内では、他にも「定置の人」に出会っている。下の写真は、下京区の川沿いで出会った人である。

京都市京都府下京区の見得切り人(2010年1月)

 確か駐車場の傍だったと思うが、これ以上の関係者以外の進入を防ぐ役割で見得を切っていた。彼もかなり長いことこの場にいるようで、赤色の部分は退色が著しい。彼の表情や全体の造形は、結構懐かしい感じがするものである。そのため、彼自身には「若手」の感がありながらも、同時に相当なベテラン感も醸し出している。今もまだ、この人はあの場所で活動しているのだろうか……。

 また、叡山電車関係の「定置の人」もいる。

京都府京都市左京区静市市原町の見得切り人&ネコ(2010年4月)

 関係者以外は、ネコでも進入は駄目ということを示している。つまりそれくらい厳しく制限しているということであろう。ネコの侵入した方向(足跡からして左から右)と逆方向に、ネコを連れ出そうとしている。連れ出されるネコの表情が、「なんでぇ〜??」という感じである。別に悪いことをするつもりはないのだろうが、叡山電車の方からすれば、施設の保安上よろしくないのは確かである。

 変わったところでは、アパートの「関係者以外立入禁止区画」に、通常のベンケイ人が配置された例もある。

京都府京都市左京区のベンケイ人ペア(2016年6月)

 この人は、ベンケイ人の中でも非常にメジャーな人である。その人が二人がかりで(という言い方も変だが)、関係者以外の進入を禁止している。一体その先には何が……?と思わなくもないが、単に屋上へ続く階段への進入を制限しているだけだろう。

 このように通常のオジギビト衆、特に禁止や制限の役割を担っているベンケイ人や見得切り人が、ある特定の場所に留まって活動する例は、まだまだたくさんある。中には、かなり長いことその場に留まっていると思われる例もあるに違いない(懐かしい顔に出会うには、そういう人々に注目すべきかもしれない)。

 こういう人々を何と表現すれば良いのか、未だに最適な名称が思いつかない。取り敢えず今回は「定置の人」としたが、何か良い案が出てきたら、他の同様の例を紹介する機会の時に、その言葉に置き換えるかもしれない。